脱力ができない人

施術をしている中で、身体がとても緊張し、力が抜けないお客様に出会うことは珍しくありません。「力を抜いてくださいね」と伝えても、なかなかうまくいかない場合もあります。どうして必要以上に身体に力が入ってしまうのか、背景にはいくつかの理由が考えられます。

力が抜けない理由について

心理的な要因

初めての環境やセラピストへの緊張感

初めてのセラピストや環境に対する不安、慣れない空間(温度、照明、音などが自分に合わないなど)により体が無意識的に緊張することがあります。特にこれまでマッサージやボディワークを受けたことがない方は、不安感が強く見られます。

弱さを見せることへの恐れ

脱力することを「自分の弱さを見せる」と捉える方もいらっしゃいます。特に、完璧さを求めたり、自分を守ることを大切にされる性格の方に多い傾向があります。

他者優先の思考

常に他者の反応や期待に応えようとするプレッシャーが強い方、他人からどう見られるかを気にしすぎるなど自分の内側の感覚よりも外的要因に意識が向きやすい方

身体的な要因

痛みや違和感、慢性的な緊張がある

慢性的な痛みや施術中の体勢の不快感があると、体が防御反応として緊張してしまうことがあります。
また、長時間のデスクワークやストレスが原因で、筋肉が無意識に緊張し続けている可能性があります。

体の感覚を意識できていない

日常生活では、体の声に気づかないまま過ごしてしまい、自分が緊張していることさえ見逃してしまうことがあります。

心身両方の要因

日常的に交感神経が優位な状態
考え事やストレスが多い方は、どのような施術環境や手技を用いても、心と体が常に緊張状態にあるため、リラックスすることが極めて難しい状態に陥っています。

トラウマや記憶

防衛反応

過去に嫌な経験や身体的な痛みを受けた場合、無意識に体が緊張を保つことがあります。

これらの場合、例えば軽く足を持ち上げただけでも力を入れて動作を手伝おうとするなど、力を抜くことが難しい特徴があります。また、自身が緊張しているという自覚がない場合も多く、リラックスへの誘導が難しくなることがあります。

なぜ脱力が重要なのか?

セラピストが施術中にお客様に脱力を促すのは、リラックスしてもらうためだけではありません。
施術の効果を最大限に引き出すために、余分な力みがない状態が不可欠だからです。
例えどれほど素晴らしい技術を用いても、お客様の体が緊張していてると、施術の効果が十分に発揮されません。脱力は、体が施術を受け入れやすくし、リラクゼーションやトリートメント効果を高めるポイントとなります。

セラピスト自身の脱力も大切

私自身も、お客様の緊張に影響されてしまうことがあります。また、特に「効果を出さなければならない」というプレッシャーを感じていた時は、施術が全く噛み合わなくなることがあることを実感しています。

過去、尊敬する先生方への質問や相談を重ねた結果、次のような心持ちを実践するようになりました:

  • 「脱力できなくても良い」と受け入れる
    お客様の状態に合わせ、無理強いせず、その時の状況を柔軟に受け入れること。
  • 必要な時だけシンプルに伝える
    「力を抜いてください」と伝える場面は必要最低限にし、施術の流れを工夫している。

結果として、無理のない施術が良い方向に進むことが増えました。ただし、常に交感神経が優位で緊張の強いお客様の場合、やはり効果が出にくいこともあります。その場合は無理に変化を求めず、お客様自身のペースに寄り添うことを大切にしています。

施術はお客様との「共同作業」です。(繰り返しになりますが)

当店を定期的に関わらせていただくお客様とは特に、信頼関係を少しずつ築きながらリラックスへと導いていくプロセスを共有できることに、日々の充実感と成長を感じています。